AIに対して賛否両論が巻き起こってますが、賛成派も反対派も実際に使ったことがない人が多いと思います。
AIに物申すなら実際に使ってからだろう!と僕は思ったので、去年の春にイラスト生成AIを実験的に利用してみました。プログラミングとか、コンピュータとかわからない文系人間なので、できる人にご協力いただいて実験しました。感謝!
この記事では、読んだ人が総合的に判断できるように、AIラストの問題点や最近の裁判事情などをおさえた上で、実験結果をご紹介したいと思います。
目次
AIイラストに関する問題点
まず最初にAIイラストの問題点を整理したいと思います。
この1年間調査した感じだと、大きく分けて2つあると思います。
①学習データ「モデル」の作成過程と
②AIによる生成されたイラスト・画像の権利です。
(図は僕が超簡略化したモノなので、実際の生成過程とは異なります)
問題①著作物を取り込んだ学習データ「モデル」作成過程
AIでイラストを作る前に、いろんなイラストやその周辺の文字などを学習させたデータ「モデル」を制作します。
このモデルを作る際に、ネット上のイラスト等が使用されていますが、その行為が著作権の侵害ではないのかというところが問題です。
正直どのくらいAIに著作物が読み込まれているのか証拠を出すのが難しく、裁判の行方はAI側に有利に進むと思います。ただ特定の作家の特徴を捉えたモデルが作成されていたりもするので、ここはもうしばらく裁判等の行方を見守ることが大切だと思います。
学習データ制作に関する訴訟
著作権に関する法律は各国で違うのですが、プラットフォームが多いアメリカでの裁判を見ていく必要があります。
米カリフォルニア州の連邦地方裁判所でクリエイターが集団訴訟を起こした件は棄却されたというニュースがあります。このニュースでAIが認めらたと考えがちですが、内容を見てみると、訴状の不備やアメリカで必要な著作物の登録などがなかったことが大きな原因のようです。
学習させる過程やデータの種類など様々な争点があり、今後の裁判の行方を見守る必要があります。
Chat GPTに関する裁判でも原告側が著作権侵害の証拠を出しきれていないので訴えの大半は棄却されていますが、逆に言えば証拠をしっかり出せれば訴えが認められる可能性があります。
しかも「著作者の許可を得ることなく著作物をChatGPTの学習に使ったのは、UCL(カルフォルニア州不公正競争法)に違反する不公正な商行為」という部分は裁判所が認めていますので、まだ先行きが見えないなと思います。
Novel AI 流出モデル訴訟検討
Stable Diffusion(画像生成AI)のイラスト系モデルの多くが、Novel AI(AIイラスト生成サービス)から流出したモデルがベースになっていると言われています。これに対してNoveL AIが訴訟を起こすというニュースが出ています。
Stable Diffusionのモデルで商用利用可になっているものも多いのですが、こういう落とし穴もあるので使えないなと思っています。
問題②AIが生成したイラストの権利
AIでイラストを生成するためには、プロンプトと呼ばれる命令を書き、それをAIが読み取ってモデルのデータを活用し、イラストを生成します。
その生成された作品は著作権があるのか、また特定の作家の特徴を学習したモデルで作成したイラストは著作権法違反にならないのか。このあたりが問題なっていると思います。
現状はAIだけで生成した作品には著作権が認められない方向になっています。この先、生まれるであろう人間とAIが共同で作品を作る場合はどうなるかなど、これからの法整備が鍵になると思います。
AI生成画像の著作権に関する訴訟
こちらもアメリカの動向が鍵になると思いますので調べたところ、AI生成作品に関しては著作権が認められないという判決が出ています。
この流れが主流になれば、例えば曲の動画に使ったAI画像を別の人が勝手に使ったとしても作品の権利を主張できなくなる可能性があります。大切な自分の作品にAIを導入するのは、現状は危険だと考えています。
現状は、法的にも倫理的にも使えないが・・・
上記のように法的にも問題があるし、個人的には他人の努力をかすめとってるような罪悪感もあるので、現状は仕事や作品では使えないなと思っています。
この先、法整備が進むと使えるようになるとは思いますが、現状のような作品を丸ごと生み出すものは使わないと思います。
しかし補助ツールとしてのAIはクリエイティブの現場に普及し始めています。音楽ではAI学習したデータを使ったミックスツールがあるし、PhotoshopのAI修正機能などもあります。先日、PhotoshopのAI機能で肌のレタッチをしましたが、すごく良かったです。
SNSなどでは悪用する人たちが目立ちますが、クリエイターとAIが共存する未来が来るのは確実なので、AIに仕事を奪われると考える人ほどしっかりと最新のAI技術の情報もチェックしておいた方がいいです。
実験結果はPixivに
ここからが実験結果のお話です。
生成したイラストは、おそらく1000枚ほど。そのうちよかったイラストをPixivに上げています。イラストのクオリティ等はPixivで確認してください。
ちょっとだけTwitterも使いましたが、Pixivでイラストの評価がわかるのでPixivのみの掲載にしました。AIタグをつけて分類。依頼受けますよ!も表記してみましたが、依頼は来なかったですw
AIイラストの評価ランキング上位です
サイバーパンクの世界で生成したボディースーツのお姉さんがダントツの1位。あとはセーラー服、ナース、バニー、美女と野獣イメージの姫、姫騎士って感じですね。Pixivを見てもらったらわかると思うんですが、え!な絵はさほど人気にならなかったのが意外でした。
いいねを押している人の名前を見るとチャイナ系の人が多かったです。
AIイラスト生成実験に使ったソフトなど
次にAIイラスト生成実験に使ったソフトやサービスをご紹介します。
Stable Diffusion Web UI(Automatic 1111)
ブラウザを使って画像生成ができるStable Diffusion Web UIを使いました。
これをクラウドのコンピュータで使うプログラミングが僕にはできなかったので、お手伝いいただきました。
モデルに関しては複数使用しています。
リアル系モデルも使いましたが、お化けが生まれるので怖くてやめました。
クラウドでGPUを使える「Paperspace」
家のMacではGPUの性能が足りず、最初Googleの無料サービスを使っていたんですが画像生成スピードが遅いので、Paperspaceというところでクラウドコンピュータを借りました。
定額使い放題でそこそこいいGPUを使えます。
ポーズを棒人間でも指定できる「Control Net」
棒人形などの簡単な絵を描くだけで、イラストを修正できるプラグイン「Control Net」を入れました。
このプラグインで修正指示をするより、プロンプトを見直して再生成する方が早くいい結果が出たのであまり使いませんでしたが、アリババが開発した踊るAIはこの技術の応用って感じなので、一応載せときます。この踊るAI使いたい・・・・
僕にはよくわからないんですが、上の踊るAIの技術資料です。興味のある方はどうぞ。
お手伝いいただいた方は「おーぷん」さん
今回お手伝いいただいた方はおーぷんさんです。ネットで出会った方でマイクラサーバーの運用をされていたり、くりまささんという方とゲーム配信をされていたり、Vtuberさんのお手伝いもされていたり、色々な方面で活躍されてます。
実験してわかったこと
それでは実際に生成したイラストを見ながら、解説していきたいと思います。
二次創作はプロンプトだけでは無理
上のイラストはプロンプトのみで「るーみっくわーるどのヒロイン」みたいなのを作ってみたっちゃ。
結果、ぽいものは生まれるんですが、そのキャラそのものは生まれません。実験当時、話題になってたウマ娘なども無理でした。
最新の二次創作をAIでやっている人は、モデルそのものを作成しているか、画像データを読み込ませてAIの画風にする「img2img」という機能を使っていると思います。
実際、img2imgでやったら、ここでは貼れない結果が出ました。良い子は使わないようにしましょう。
名前で100%生成される唯一のキャラ「初音ミク」
もしかするといろんなキャラ名を入れたら生成できるんじゃないかなと思って、アイマスから最新アニメまで色々やってみました。
おっさん二人でやってたので古いキャラも入れてみたんですが生成できず。2000年以降の人気キャラは生成される場合があったのですが、名前だけでは難しかったです。ただ初音ミクだけは、名前をプロンプトに入れるだけで、どのモデルを使っても100%の確率で生成できました。
日本のイラストを大量に読み込ませてますね・・・
特定の作家の作品がそのまま出てくることはない
今回は、大量のイラストを読み込んでいるモデルを使用したので、特定作家の特徴が出ることはありませんでした。ただプロンプトでWatermarkやArtistnameを除外設定にしておかないと、高確率でサインぽいものや文字っぽいものが出てきます。権利関係は守らず、イラストを読み込んでいる可能性が高いですが、元画像がわかることはないと思います。(特定作家の画風が出てくるものは分かりません・・・)
上の画像はWatermarkやArtistnameの除外設定プロンプトを入れなかった場合の生成画像です。
生成しやすいCowboy Shot
画像生成は失敗も多いです。リアル系をそこまで作らなかった理由は、とんでもないホラー画像がいっぱい生まれるからですね。
イラスト系でも手足多くない?みたいなものがたくさん生まれる場合があります。
色々試した結果、Cowboy Shotと呼ばれる太ももより上の人物を描くプロンプトを入れると成功確率が高かったです。
衣装違い、ポーズ違い、表情違い、いろんなものが作りやすかったです。
二人も生成できるが・・・
モデルによっては二人生成することもできました。ただどっちか一人を失敗することが多く、両方成功させるには大量に生成する必要がありました。一人生成より成功する確率が低いので、途中からは一人だけ生成する実験にシフトしました。
画質を上げると生成スピードと効率が落ちる
AIのイラストは簡単にできるイメージがありますが、失敗作がかなりあります。
たくさん作っていいものを選ぶ方が早いので、512×760くらいの解像度で作ってました。
A5000というGPUを使うことが多かったんですが、数秒に1回生成できた感じですね。
これよりも解像度を高くすると生成時間が1分ほどかかる場合もあって、効率が悪かったです。
手だけではない!足も苦手!
手をちゃんと描くのがAIは苦手!というイメージが定着していますが、実は足も苦手です。
左は足が三本?あります。右の絵は左足が膝から先が描画されてません。これらはまだ掲載できる失敗例ですね。
SNSで成功例しか見てないと、AIイラストは簡単に作れると思いがちですが、本当に使えるものは数十枚に1枚です。
一度、自身で生成AIを使うと、XなどでAIの凄さをアピールしているアカウントを見ると「いいとこしか見せてないのでダメだなこいつら!」と思えるようになります。
人間が修正すればかなり使える
AIが部分的に失敗しているイラストの場合、人間が修正することで完成させることができる場合があります。
上のイラスト、左は手が恐ろしいことになってますが、右は修正されてまだ見られるものになってます。サクッとフォトショで修正しただけなので汚いですが、丁寧に描けばキレイな手になると思います。
上のイラストも左が修正前、右が修正後。使える部分は残しつつ、背景の柱や髪の毛も含めて描き直しています。現在のAIでイラストを作ろうと思うなら、人間の構造を学び、イラストを描く技術がないと間違いに気づかないです。
ほとんど逆光のイラスト
どうしようもないのが、影の付け方ですね。ほとんどが逆光です。塗りがリアルなのでぱっと見では騙せますが、じっくり見ると変なところがいっぱいです。
ちなみに着物の女の子の両手は僕が描いて修正しています。
やはり人間の修正があって完成するのがAIイラストだなと思いました。AI絵師を名乗ってる人は、実際にAIイラストを自分の手で修正している人もいると思います。
モノと絡めると失敗する確率が高い
モノと人を絡めると変なものが生まれます。
左は銃と人を絡めたのですが、銃がヘンテコです。これがマシな方で、失敗作は銃と腕が融合したコスモガンみたいなものまで生まれました。
右は真夏に水着で飲み物を飲むシーンを描いたらホットなカフェラテっぽいものを描きました。暑さとかAIにはわかんないんだろうなと。カップを持つ指も変です。
プロンプトでちゃんと指を描けという指示を書いてこれです。まあ6本指を描くトレース絵師よりは上かなと思いました。
たまにモノと融合する
モノと接触する場面を描くと、たまにですがモノと融合することがあります。上の写真はベットになった女の子ですね。出てきた時は心臓止まりそうになりました。
部屋は遠目で見るといいが・・・
この数年、僕はお絵描きの練習をしてまして、人物はそこそこ描けるようになってきたんです。もしAIが背景を描いてくれたら作品のクオリティが上がるのでは!と思ったので、いろんなお部屋を作ってみました。
ぱっと見だとよくできた教室ですが、机が異次元の方向を向いていたりします。何回教室を生成しても、同じ机が並ぶところは再現できませんでした。
シンプルな可愛い女の子のお部屋です。ベットに可愛いぬいぐるみが!と思って見ると化け物が置かれてますね。そのほかもツッコミだすとキリがないです。
思い切って現実にはないサイバーパンクなお部屋を作ってみました。こういうものは逆に違和感自体が緩和されるので、いい雰囲気になります。
他にもアイレベルを高くしたり低くしたりするコントロール実験もしましたが、うまくいかなかったです。
お部屋が綺麗に生成されたとしても、昔のノベルゲームのような切り抜きのキャラをお部屋イラストの上に載せて使うことはできそうですが、部屋と一体感ある人物イラストにするためには、お部屋を生成してから人物を上から描く必要があります。正直、描くのが楽しくないので途中でやめました。
現実に存在しないモノが作れる
現実世界にはないお部屋がうまくいったので、あり得ない世界を色々作りました。特に良かったのがファンタジー世界のお城です。
これもツッコミどころ満載ですが、常識人であればあるほど描けない世界が生まれるので、作っていて楽しかったです。
まとめと感想
最後にAIでイラストを作ってみた感想を書いておきます。
AIは万能ではない
昔お世話になってたお仕事関係にテクノロジー系の人がいて、AIを組み込んだシステムの開発をされている人がいます。その人曰く、「AIって言ってますけど、今のものはAIじゃない。機械学習したデータを使うシステムみたいなもんですよ」とのことでした。
イラストを生成していると「おいAI、なんも考えてないだろ!」って思うことが多いんですよね。キレイな絵はできるけど、いい絵ができるものではないと思います。
それよりは実用化されているクリエイティブ補助機能の方が優秀なので、クリエイターのクオリティを上げるツールとして進化してほしいなって思います。
AI作品を人は選ばない
AIで作られた作品に人は魅力を感じるんでしょうか。
日本は作品だけじゃなく、作品を生み出したクリエイターを支持する文化があると思います。同人系の販売サイトではAIの規制がかかる前から、AI作品はあまり売れてません。
あらゆるサイトで弾かれたAI写真集やAIイラスト集がAmazon Unlimitedに流れ込んでますが、これも評価がそこまで高くない。というか検索汚染されるので分けてほしいと思うくらいです。
法的な問題がクリアできたとしても、日本人はAIの作品を選ばないと思います。
偶発的な面白さからアイディアが生まれるかも
プロンプトでいろんなもを作っていくと、偶発的に面白いものが生まれたりします。
「いい衣装ができないな?」とか「ポーズがイマイチだな?」というときにAIを使ってみてはどうでしょう。参考資料を作ったり、アイディアを生み出すきっかけ作りができると思います。
僕は肌塗りやバニー衣装のリアル塗りが上手くなりましたw
クリエイターはAIを味方にする方法を考えるべき
おっさんクリエイターとしては、写植屋さんがMacの登場で潰れ、デジカメの登場で写真屋さんや紙焼き屋さんが潰れるのを見てきました。新しい技術を取り入れて生き残った人もいたし、逆に新しい技術に対抗して自分のスキルを磨いて勝ち抜いた人もいました。生き残ったクリエイターの特徴は、学びに貪欲な人たちであり、作品作りに命をかける人たちでした。
AIの技術革新は今後も続くと思います。生き残れるのはAIを取り入れることができた人と、AIを超える作品を生み出す人だと思います。
敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。
AIという技術にまずは触れてみて、自分はどう付き合っていくべきかを考えてみてはいかがでしょうか。
AIイラスト集が多いKindle Unlimited
AIのイラスト集を大量に見てみたい人はKindle Unlimitedという読み放題サービスで大量に見られます。AIイラスト本はお勧めしないですが、イラストの描き方に関する本やDTM本もいい本があるので、一度契約してみてはいかがですか?